今回はとても幸運なことに、この村でアートセラピーを主宰するシャウス先生のアトリエを見学する機会をいただきました。
古い木造建物の一室、こぢんまりした空間。クライアントと基本的には1対1で、作品を創りながら心を癒していく。ものをつくる、表現する、味わう、という過程で起こる不思議な作用は、説明は難しいけれど事実として、体感されるもの。
けれど、心が疲れすぎているとき、騒いでいるときは、その世界に入る扉すら、閉ざされている気がする。実際に、クライアントがそういう状態の時は、どうするのでしょうか。
「クライアントを見て、今日はすぐに作品にとりかかる状態ではない、と判断したときは、小さな蜜蝋のかたまりを渡して、手のひらの中でゆっくり、温めて柔らかくしてもらいます。冷えていた手も、同時に温かくなってきます。柔らかくなっていく蜜蝋を、触りながら、練ったり握ったりするうちに心が落ち着いていくのを待ちます。それから、クライアントの表情や状態を見て、その日どんなプログラムにするかを考えます。事前に決まっているプログラムを優先させることはしません」
蜜蝋の触感、匂いなど、自然の中にあるものと文字通り「触れ合う」ことでもたらされる効果は、穏やかでしかも絶大なようです。その影響を知るシュタイナー幼稚園や一部の幼児教育の現場でも、プラスティックの玩具などは一切使わず、木の玩具や、貝殻、木の実、石など、自然の中にある素材でできた遊び道具を使っていますが、セラピーの現場で、大人のクライアントにさえ、その不思議な効果は確実に顕れるようです。
このアトリエのすぐ近くには、小児科のお医者さんがありました。ここも、入口を見ただけで日本にある多くの小児科医院とは雰囲気が違うことがわかります。
「外界の影響を受け取るからだと心」について、根本的なセオリーが違うことを感じます。
木製の小さな青い扉が小児科医院の入口。だんだんと村を照らす陽の光が夕方の色になってきた。 |
セラピーを行う机からは緑の木々が茂る中庭が見下ろせる。季節の花が活けられ、木の実や石、落ち葉などが自由に手に取れるよう置かれている。モデルとして使用する以前に、触り、見て、味わうことで気持ちを鎮め、解き放つ力がある。
湿らせた紙に淡い色調の水彩で、偶然生まれる質感を味わいながら自由に描いていくのは、よく用いる手法の一つ。ここにも、自然の一部、貝殻が。
フラウ・シャウス。彼女自身も勿論、アーティストです。
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