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 Listen To My Roots

ふだん歩いているビル街を、横におしなべたらいったいどれだけの広さになるのだろう。たった1ブロックでも、もしかしたら端が見えないほどの距離になるのかも。ショップのように、だれにでも開かれた場所とそうでない場所があるけれど、いずれにせよそこで起こっていることの何十分の一も知らないで通りすぎているわけです。

『YUTAKA_Tshirts_Exhibition--Listen To My Roots』が行われた Camel Pleasure Factory Studio (CPF Studio)も、たぶんこのイベントがなかったらずっと知らないまま通り過ぎていた場所でした。
青山・骨董通りの中程にある細い路地を曲がり、およそ「開かれて」いるようには見えないきれいなビルの8階、広さは15坪ほど、白を基調としたギャラリー・スタジオ風のスペース。名前から察するに煙草メーカー「キャメル」の事業の一環らしいのですが、それに気付いたのも、レセプション・パーティでエレベーターが開いたとたん、霧のようなケムリに驚いてから(!)
3月24日夜、関係者とCPFメンバーのみ入場可能なパーティに呼んで下さったのは超人気ドラマー沼澤 尚さん。その人とドラム両方のファンである私に「こんなイベントもあるよ」と、その内容が、とても興味深いものでした。
ファッションデザイナーの高橋 裕(YUTAKA)さんが、沼澤さんを含む数人のアーティストの“ルーツ”となった音楽について、そのエピソードを聞き、生まれたイメージをTシャツに表現する。それを会場で、曲とエピソードと一緒に“展示”をする。受け手は「その記憶を目と耳で感じる」。これは、絶対オモシロイ!だってそのルーツがあって、その結果として成っている“人”が、もうオモシロイのだから。それを音楽と物語というかたちで受け取って、視覚や触覚が専門のアーティストYUTAKAさんが、Tシャツというカタチにしようというのです。
ということで参加させていただいたパーティは、DJあり、妖艶なベリーダンスあり、なんとサンパウロメンバー(Dr.沼澤尚/G 佐藤タイジ/K森俊之)のライブつきという豪華な内容。当然ライブハウスのようなPA設備は無し、部屋の片隅にわらわらとセットされた楽器たちから繰り出されるのはインプロヴァイゼーションの嵐。ミュージシャンの生音をとんでもなくリアルに楽しめる、日本でこんなチャンスなかなか出会えない!
平日の夜、静かな青山のビルの8階に、こんな空間が存在しているとは、きっと外を通り過ぎる人たちは誰も気付かないだろうな。
<パーティの模様がYUTAKAさんのホームページで紹介されています:
 http://www002.upp.so-net.ne.jp/t-d/listentomyroots.html

沼澤さんに紹介いただいたYUTAKAさんは、ん、夜でもサングラスをかけている、けれどきっと目は笑ってる、とわかる人。なにより、私が興味を持ったのは他人が大事だと思ってる音楽の話を聞いて、それをカタチにしてみようという発想。しかも対象アーティストの中には初対面の人もいるらしい。そういう相手の、ルーツの話を、しっかり受け止めて、自分の理解をカタチにして相手に返すという、そんなプロセスを楽しめる人にちがいない。そして、YUTAKAさん自身音楽が大好きなんでしょう。ライブでは最前列で本当にうれしそうに踊っていた。1曲が人生変えちゃうようなパワーを持っていることを、YUTAKAさん自身“ルーツ”に持っているのかな。
しかしこの夜は、混雑の中ご挨拶だけで、しかも肝心のTシャツ展示はライブ前に片づけられてしまい見ることが出来ませんでした。そこでYUTAKAさんの「ここ昼間来るとすごくいいから!」のおすすめもあり、翌々日の昼、出直すことに。

再度訪れたCPF Studioは、相変わらず開かれた場所なのか表からはわかりませんが、エレベーターで8階まで上がると夜の印象とは一転、白い壁に陽光が明るく、大きな窓からは裏青山の住宅街が一望できます。しかも一角がガラスになっており外には空中日本庭園が。これも、外からでは絶対、気付かないだろうなぁ。
明るい光の中に木枠と赤いネットで作られたブースがあり、そこにYUTAKAさんの作品がディスプレイされています。シンプルで肌なじみがよさそうなTシャツのフロントにそれぞれのアーティストから得たイメージが、バックにはLISTEN TO MY ROOTSのかっこいいロゴのプリントが。すぐ着たい!と思える、着ればそれいいじゃん、と声がかかりそうな、“作品”というような大仰な主張ではなく、Tシャツとして心地よく、楽しく「着られる」ことがいちばん、という感じが、伝わってくる。
そして壁面には、それぞれのアーティストの“ルーツ”にまつわるストーリーが、思い出の曲と一緒に控えめに展示されています。それを読んでへえぇ!とTシャツに目をやる。着ることで物語を共有する。心理療法家の河合隼雄さんが、人が自分の“物語”を見いだすことで癒されていく、と言っていますが、物語を持てることの幸せと、それを丁寧に聞こうとする存在に出会える幸せを分けてもらったような気がします。

作品の詳細は、YUTAKAさんのWEB(彼がオーガナイズするイベント"Souvenir"や、新作のインフォメーションもあり!)におまかせして、ここでは、YUTAKAさんから頂いたメールをご紹介。次なる『作品』が楽しみ!

みんなが元気にハッピーになってもらえるのが一番。
でも、オリジナリティがあってカッコイイものにしたい。
今回のTシャツも同様、着やすいデザインに落とし込んでいます。
あれを着てもらって、それを見た人がまた作品の意味を知って、それについて会話する、それでこの作品が完成ですから。
高橋 裕(YUTAKA)http://www002.upp.so-net.ne.jp/t-d/

[Apr.2004 桜井純子:AFL]

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